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空中線の張りめぐされた艦船模型は美しいものです。
しかし上手く付けないと汚ならしいだけの模型になってしまい逆効果。また正しくスケール換算すると、日本で主流の1/700の場合空中線は見えないのではないかという意見もあり、それらの理由から張り線作業はあえて行なわないという人も少なくはありません。

上手く張るのは慣れの問題なので、結論から言うと場数をこなして腕を磨くしか上手くなる術はないのですが、それでも少しでも失敗を少なくする手助けになればと、私なりの方法論を紹介したいと思います。
素材にテグスを使う
要するに釣り糸のことです。(厳密にはテグスはすでに釣り糸の素材として使われてなく、名残で「釣り糸=テグス」と呼称されている)
経年劣化に強くて引張強度も抜群。糸の太さが他の素材では太刀打ち出来ないほどかなり細いものからラインナップされているので、最も実物に近いスケールの表現が可能であり、種類も多くて選択幅が広いのが魅力。現在の艦船模型用空中線の主流です。
素材はナイロン、フロロカーボン製が一般的で、艦船模型によく転用されるのはナイロンと金属糸。
日本では釣り糸の太さの規格を号数で表記しており、艦船模型によく使われる太さのものを抜粋してミリ換算すると以下の表のようになります。
号数 |
0.05 |
0.07 |
0.08 |
0.1 |
0.125 |
0.15 |
0.175 |
0.2 |
0.225 |
0.25 |
0.3 |
直径(mm) |
0.037 |
0.043 |
0.049 |
0.05 |
0.059 |
0.064 |
0.069 |
0.074 |
0.079 |
0.083 |
0.09 |
※直径はメーカーによって多少の差があったり発売されていない太さもあります。
太さは0.05〜0.3号くらいのものが適しており、1/700の場合、0.05〜0.2号を使ったものが多いです。1/350は0.3号くらい。
価格はピンキリですが、模型に使うのですから高級品の必要はありません。
当サイト展示の艦船模型の場合、
を用いていますのでライン選びの目安になればと思います。
その他の空中線の素材に関しては後に記述。
テグスの種類
●ナイロンライン
最も一般的な釣り糸。角面にも馴染む柔らかさで扱いやすい。50m巻/1000円〜3000円程度と安価なのも魅力です(50mもあれば10年は戦い続けられるぞ)。
特に鮎用、へら鮒用、渓流用の釣糸が超極細で、1/700の空中線に使ってもスケールオーバー感がありません。一番細いのは0.1号。色は透明もしくはクリアーカラーのため着色する必要があり、そのため実際は塗膜で一回り太くなりますので、それを見越す必要があります。張り方は後に記述。
モーリス(MORRIS) バリバス エクセラ鮎 水中糸 ナイロン 30m 【Amazon】 |
最安値クラスの鮎用ナイロンラインで30m巻き。糸色はナチュラル。最も細いのは0.15号。オープン価格で実売価1000円前後、その場合の1mあたりのコスト・33円。
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東レ(TORAY) 将鱗アユ スーパープロ 50m 【Amazon】 |
鮎用ナイロンラインで50m巻き。糸色はナチュラル。最も細いのは0.15号で定価2,625円。
1mあたりのコスト・52.5円。(ただしAmazonの場合値引き率が大きいのでコストは他の低価格ナイロン糸と同じ程度)
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L&DACLON ナポレオン・NEWナポレオン ハリス 50m巻 【Amazon】  |
中国製のへら用ハリス(釣針と道糸を結ぶ糸)で、糸色は透明。ナポレオンは0.1、0.15号の超極細があり定価1,890円、NEWナポレオンは0.2号からで定価1,300円。このクラスのナイロンラインで最も安い部類。
1mあたりのコスト・ナポレオン37.8円、NEWナポレオン26円。
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●鮎釣用金属糸(メタルライン)
模型誌の超絶作品によく使われているのがこれで、プロフェッショナル用。
ナイロンラインより二回りも細い0.05号からラインナップされてる上に特筆すべきはその質感で、金属なのでしっとりした硬質感・重厚感があって繊維素材にはないアドバンテージです。
形状記憶合金製なので巻き癖はほとんどなくピンと張っており、着色済みなのでそのまま使えます(ブラック推奨)。12m巻/2500円〜5000円くらいと価格が高いのが難。一巻きで大体1/700大型艦船模型2〜3隻分くらいまかなえます。張り方は後に記述。
モデルカステン メタルリギング艦船模型用極細金属張り線 5m 【Amazon】 |
鮎用金属糸が艦船模型の貼り線として認知度が高まった事により、ホビー用として模型店で流通してる製品。ブロンズ色5m入りで1/700艦船の場合大型艦なら2〜3隻、小型艦なら4〜6隻制作が可能。
価格は定価1,890で1mあたりのコスト378円
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エスエムディあゆゲッター メタルパワー ブラック 12m 【ナチュラム Yahoo!支店】 |
各社鮎釣り用金属糸の中でもあゆゲッターは安くてコストパフォーマンが良く、模型用として使うには最適。
12m巻は定価2940〜3150円で1mあたりのコスト245〜263円。
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エスエムディあゆゲッター メタルパワー ブラック 25m 【ナチュラム Yahoo!支店】 |
コスパを優先するなら25m巻。定価5880円で1mあたりのコスト235円。
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鮎釣りは5月末〜10月くらいがシーズンでして、シーズンオフになると大手釣具店でも取り扱われない(取り寄せすらできない)ことがあります。オンラインストアは現状年中取り扱ってます。
張り方色々
●分割式
線を一区間ずつ小分けにカットして張っていく方法。メリットはどこか一箇所の作業を失敗したりクラッシュした場合、その部分だけを張り替えればいいのでリカバリーしやすいこと。さらに糸が切れてクッションになってくれるのでパーツを破損するなどの大きな被害が出にくい事です。
デメリットはマストなどのたくさんの線が集まってる箇所が線の終端や接着剤の塊などで太くなって仕上がりが醜くなりやすい事です。

●一括式
分割せずに出来る限り一本の線を使って張っていく方法。連続して張っていくので、線が集中する箇所に接着剤の塊が出来にくくて仕上がりが綺麗になります。デメリットは、張り作業の途中で一箇所が外れたりクラッシュした時にその線の全ての箇所を一からやり直さなければならないことです。

メタルラインはコシが強いため角に馴染みませんので一括式で張ることは出来ません。
接着剤について
張り線作業は細い糸をマストのようなやはり細い場所に接着するわけですから、かなりの強度を必要としますので瞬間接着剤を使います。
瞬間接着剤には液状タイプとゼリー状タイプがありまして双方メリット・デメリットがあり、どちらが張り線作業に向いていると一概に言えません。おのおのが良いと判断したものを使いましょう。
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●液状タイプ
長所: 塊が出来にくく仕上がり表面がキレイ
短所: 液体なので流れやすく糸のような接着面が極小のものは接着しにくい。
備考: 100均ショップの製品はサラサラすぎて不向き。多少粘度のある物やスピード接着タイプが使いやすい。
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●ゼリー状タイプ
長所: 粘性があるため糸のような小さいものでも接着しやすい。
短所: 塊が出来やすく、上手く使わないと逆に仕上がりが汚くなる。 |
ナイロンラインの張り手順
ナイロンラインは瞬間接着剤との相性が良く、液状とゼリー状のどちらでも使えます。液状は接着剤を薄く付けれますので仕上がりがスッキリして美しく、ゼリー状は粘性が高いのでくっつけやすくて便利。私は仕上がり重視で液状のほうを使用しています。
作例はハセガワ1/700空母加賀。
使用したテグスはユニチカの『グンター』0.3号。
今の感覚で見ると随分太いラインですが、加賀制作当時の2002年頃は1/700スケールにそれほどディテールを追求する風潮じゃなかったので、これでも十分でした。
ナイロンテグスはスプールの巻き癖が強くついているので針金製ハンガーなどに張り、ドライヤーで温めて癖をとってやリます。着色もこの段階で行います。
色は黒を塗ると太く見えやすいので軍艦色で塗装。

張り線をする最初の箇所に瞬間接着剤をごく少量に点付けします。
接着剤の先端から直接付けようとすると出すぎる事があるので、金属線や伸ばしランナーなど先の細いものに移して付けるようにしています。
爪楊枝は接着剤を吸い込んでしまうのでこの作業には不向き。

ナイロンラインを接着し、次の接着箇所へ伸ばします。
空中線をキレイに見せるにはとにかくピンと張ってたるませないこと。たるみを表現した作品も稀にありますが、ナイロンラインは非常に軽い素材ですのでそれらの作品の多くが『たるみ』ではなく単に糸がヨレてる風にしか見えないのです。

軽く糸を引っ張りながら、二箇所目の空中線支柱に接着します。
ナイロンラインは柔らかくてエッジにも馴染むので、ここでラインをカットせずに次の三箇所目へ経由させます。

三箇所目は無線マストです。
ここはあまり強く張りすぎるとマストが張力に負けて少し斜めに傾いてしまったり、同方向に既に張られてある他の空中線がたるんでしまったりするので、それを見越した適度な張力で張るのがコツ。
こんな感じで張り巡らしていきます。
一本のテグスであまり長々と張り巡らすと、途中の接着ポイントが外れたりした場合、目も当てられないことになりますので適度に分割しましょう。空中線の折り返し地点くらいで分割するのが良いと思います。
また接着剤が多く付いてしまい塊が出来たときは、アートナイフで力を入れずにコリコリと削り落としてやります。あまり削り過ぎると強度が落ちたり外れたりするので注意。
鮎釣用金属糸糸の張り手順
鮎釣用金属糸は抜群の質感の代わりにナイロンラインと比べるとちょっとクセ者で扱いは多少難しくなりますので、その特性を生かした張り方をします。接着剤のノリがナイロンほど良くなく、さらに比重が重いため硬化接着するまでにポロッと外れてしまいやすいので、ゼリー状のほうが相性が良いです。
また前記のとおり、形状記憶合金のためコシが強くて角に馴染まないので一括式で張ることは出来ません。分割式で一区画ごとに区切って張っていきます。
作例はアオシマ1/700空母蒼龍。

使用した金属糸はエスエムディの『あゆゲッター メタルパワー ブラック』の0.15号。
選んだ理由はこの製品が鮎用金属糸の中で一番安かったんですよ。

鮎釣用金属糸は形状記憶合金のため、スプールの巻き癖がほとんどないのがウリのひとつですが、やはりわずかな巻き癖はあるんです。画像でもそれがわかりますよね。
※製造元のエスエムディ様より巻き癖の取り方を教えていただきました。(2007/11/03)

このわずかな巻き癖を逆に重力によるたるみ表現として利用します。
張る区間より気持ち長めにラインを切り出して貼り付けます。
糸自体が最初からピンとしていてコシも強いために自重で垂れることもないので、接着するときにはナイロンラインのように引っ張る必要はありません。
たるみらしく見えるように巻き癖の方向を下向きにして、接着箇所の両端にラインを上から置くようにして貼ります。(『張る』と言うより『貼る』です。)

余分なラインをカットします。ですがこのラインは金属糸なのでカッターでは切れません。
色々試してみた結果、一番切りやすいのは薄刃ニッパーでした。ただしこれは本来プラスチック専用なので、超極細の糸の切断とはいえ刃の寿命が短くなる可能性があります。
次点はエッチングばさみ。こちらは金属切断用なので安心です。
※追記(2013/08/29): メタルラインニッパーという鮎釣用金属糸の切断能力を保証した模型用金属線材専用ニッパーが発売されました。実際に試し切りしてみましたので詳細はツールレビューにて。

こんな風にたるみらしくなりました。
注意点としては、巻き癖の方向をたとえわずかでも左右にずらさないこと。ずれるとたちまち空中線のヨレたショボイ模型に早変わりしてしまいます。特に画像のように空中線が何本も平行しているような箇所はごくわずかなずれでも超目立ちます。
また鮎用金属糸の取り付け方は分割式でしかもゼリー状瞬間接着剤を使うのだから、マストのような空中線が集中する箇所は接着剤がダマになって小汚くなりやすいので要注意。
鮎釣用金属糸の巻き癖の取り方 (2007/11/03加筆)
このページをご覧になられた鮎釣用金属糸『あゆゲッターメタルパワー』の製造販売元であるエスエムディ様からメールをいただきまして、巻き癖の取り方を教えていただきました。
HPにてご紹介ありがとうございます。
弊社の製品が釣糸以外で使用されていることを知りうれしい限りです。
金属糸の巻き癖について巻き癖を取るのに苦労されているようなので、簡単な癖の取り方をご紹介いたします。
この金属糸の特徴は、引っ張ると金属であるのに伸びる事です。一度スプールに巻き取ると若干の巻き癖がつきますが、引っ張って伸ばしてやると真っ直ぐになります。
一度お試し下さい。 |
というわけで実際に試してみました。

せっかくなので巻き癖が強く突いている箇所を選んで実験してみます。
ごらんのように少しカールがかかってますね。

指で引っ張るのは無理があるので、プライヤーで挟んで引っ張っりました。
引張るときの力の入れ具合は、『あっ糸が伸びてるな』と感じるところを見極めるのがミソ。力が弱いと巻き癖が取れませんし、強すぎると今度は糸が張力の限界を超えてちぢれてしまったり切れたりします。
私も1回目は力を入れ過ぎて切ってしまいました。

本当に巻き癖が取れました!すごい!!
この特性を利用して、たるみ表現をしたい箇所とそうでない箇所を使い分けるのがベストだと思います。
エスエムディ様、今回はわざわざご指南いただきましてありがとうございました。
『あゆゲッター』の張力に関する検査成績表はこちら。
硬化促進剤
空中線は接着面積がとても小さいので接着強度を確保しにくく、そのうえ製作中につい引っ掛けてプツンと切ってしまいがち。そこでボークスから発売されていた造形村瞬着硬化促進剤が、ピンポイントの場所に最小限の接着剤量で強力に接着できるので、張り線作業に大変便利だと紹介していたのですが、その後残念ながら製造終了になってしまいました。
そこで現在は別の方法で代替えしていますので、それを紹介します。
硬化促進剤は液体タイプでなく揮発性のものが必要。ウェーブとアルテコから発売されています。
現在私はアルテコスプレープライマーという製品で420ml入りの超お得サイズ(殺虫剤サイズ)を重宝しています。オススメ!
瞬着硬化スプレーは本来接着箇所に直接スプレーして使うのですが、実際そうすると圧が強くて張り線が吹き飛んだりゆがんだりします。なのでプルプラ社の『ジェットオイラー
ミシン型 No.307(35ml)』というポリ製油差し容器に移し変えて使います。ホームセンターで売っていて価格は100円以下。他社でも同じような製品があります。
 
BOLL NEWオイラー 35mL NA-35 【Amazon】
フルプラ: ジェットオイラー ミシン型(24個入) 35ml No.307 【Amazon】

ジェットオイラー内に硬化スプレーを吹き込み、すぐにノズルキャップで栓をします。
この容器は機密性がイマイチなので、硬化スプレーはそのときの作業に要る分だけでたくさん吹き込み過ぎないのが硬化剤をムダにしないコツ。

接着部にノズルの先を近付け、容器をシュポシュポ押して気化した硬化剤を吹き付け硬化させます。
接着剤や硬化剤を付けすぎてしまって塊が出来てしまうような事もなく、美しい仕上がりでかなりの接着強度を得られ、しかも白化防止効果もあります。
逆に強く接着しすぎて服などに引っ掛けたとき、ラインが外れずに接着部のパーツが根元からむしり取られることもあるので、接着剤の量を極力少なくするなどの配慮が必要なくらいです。
この方法ならたとえ1mm以下の接着箇所にもピンポイントにとても美しい仕上がりで強力に接着することが可能。まさに艦船模型のためにあるような接着法で、私は張り線以外にエッチングパーツにも用いています。
あと瞬着硬化スプレーは臭いが強烈なので、使用の際は十分に換気するようにしましょう。
その他の素材
最後にテグス以外の空中線の素材を色々紹介。物色してみると他にも使えそうなモノが結構あります。いずれも着色済みの手間要らずなので、ある意味ナイロンラインより便利かも。
伸ばしランナー
インストにも載ってる昔からの正攻法。
不要になったランナーを使うためエコロジーで経済的。練習して慣れると太さは自由自在に調整できるようになります。素材がプラスチックだけに瞬間接着剤との相性も抜群!(プラモデル用接着剤では溶けてしまうことがあります。) ただし強度が弱いので、うっかり引っ掛けるとプチッと切れてしまうのが短所。
パンスト
これをほどいて糸として使用。伸縮性に富みソフトなので、模型に負担を与えずにピンと張ったキレイな線を張れるのが他の素材にはない最大の利点。ただし普段はちぢれた糸なので、重力でたるんでる状態は表現不可。
でも男が買いに行くのはちょっと恥ずかしいね。
ドールヘア
創作人形用素材で、ストレートヘアータイプの製品が流用できます。
細くて強度があり、最初から着色されてるので便利。長さは60cm程度で、材質はナイロンなどの化学繊維製が一般的。他にも和人形用に「スガ糸」といって日本古来の絹糸もあり、こちらは少しパサッとした質感です。
価格は大体500〜2000円前後。束にしてあるためクセが付いてますがお湯で温めると元に戻ります。
ワンタッチエクステンション
女性用ファッションアクセサリーの一種で、わかりやすく言うと『つけ毛』ですね。少量で安く売られている製品もあるので、散財したり余分を持て余すことなく使い切りやすいのが魅力。
素材はファイバーなどの人工毛だったり自然毛(人毛)だったりと色々で、ストレートヘアーの黒系の製品が使えます。長さは標準的なもので35cm前後。ロングヘアー用なら約60cmでビッグスケールにも対応可。
(2002/10 公開)
(2007/09/23 初回改定)
(2007/11/03 二回目改定)
(2013/05/31 三回目改定)
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