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プラモデル徹底工作 自動車模型フル開閉化編

もしも街中で、国産大衆車とスーパーカーが同じ場所に並べられてたら、おそらく大多数の方が美しくカッコ良いスーパーカーのほうに注目されますよね。しかしカーモデルの場合、説明書どおりに作られたスーパーカーよりも、“ドアやボンネットが開閉する”という実車ではなんでもない当たり前のことが、カーモデルでは魅力的に見えてしまうものなのです。
(本誌143頁: 「淡路修史氏・あとがき」より抜粋)

今月の新刊ではありませんが3月末発売なのでまだ新しく、流行り廃りに左右されず色褪せにくい内容で質も素晴らしい稀有な本と判断しましたので、ブログではなくツールレビューで取り上げてみました。

そのタイトルどおり、カーモデルのドア、ボンネット、トランクを開閉可能に改造する解説書です。といってもL型ステーで外側に押し開くダイキャストミニカーやトイ的な物ではなく、実車と同じくドア先端がフロントフェンダーの内側に潜り込んだり、ハッチゲートがダンパーで持ち上がるといったリアルな可動を再現する方法です。



この本にはフジミ1/24ランドクルーザーとハセガワ1/24ランチア・ストラトスのたった2つの作例しかありません。けどそれらをフルオープンモデルにするためには実に多くの手順を必要とし、その解説が全144ページに渡ってステップ・バイ・ステップでびっしり記載されてるので、読んだほとんどの人は納得するでしょう。

また作例の一方が誰もが馴染のある4ドアの一般車であるのに対して、もう一方が羨望のスーパースポーツという対極の車であり、車体構造が違うためにそれぞれがミクロな部分において違った工作をしているので、同じクローズドからオープンへの改造でありながら内容がカブっていません。

第1章は淡路修史氏によるフジミ1/24トヨタランドクルーザーの製作。
全扉開閉にすると中身が見えてしまいますから、一緒にインテリアのディテールアップ、エンジン、ピラー、サイドシルのスクラッチを行い、さらには前後照灯をLEDで点灯可能にしています。

※青い枠の画像はクリックで拡大します。
ドアの切り離し作業。模型用のノコやナイフ以外に筋彫りツールを使って切断。 ドアを抜いたボディにピラー、サイドシルをプラ材で自作してモノコック構造を再現。

ドアヒンジの製作。金属素材を使いはんだ付けすることで強度的に不安のないのものを制作。 ヘッドライトとテールライトの電気工作。チップ型LEDを使う事でマルチリフレクターぽい光り方を再現。

完成画像の一部。ドアにはストライカー、キャッチロック、ウエザーストリップ、ゲートダンパーまで再現されてます。1/24でここまでガチな改造見たの初めて。 淡路氏の作品集。スポーツカーから痛車まで馴染ある国産車が数点載っており、みんなフルオープン改造されています。18ページあり。


そして後半は高橋浩二氏によるハセガワ1/24ランチア・ストラトスHFの改造。

この車は競技車両の構造なので、モノコックの運転席の前後から強固なフレームが伸びていて、そこにエンジンや足回りが組み込まれ、上から前後にガバッと開く軽量カウルをかぶせた車体になっています。キットではその構造を再現していませんから、前後カウルを切り離すと裏にあるシャシー合体用ダボを使えなくなるので、前記のランドクルーザーの工作工程に加えて最初にシャシーとの位置合わせや細部のすり合わせ作業を行ってます。
ランドクルーザーよりボディをバラバラに切り刻む事ので部品の強度と精度を補うため、実車さながらの車体構造をプラ材で再現していきます。 洋白板、洋白線、真鍮パイプといった金属素材を使って各ドア・ハッチのヒンジを自作。各部固定にはネオジム磁石やICソケットを使用。

ウインドシールドは透明塩ビ板をヒートプレスして自作し、実車らしい薄さを再現。 エンジンなどの内部メカはキット純正ではディテール不足なので、補機類や装備品を自作して大幅に追加。

完成した姿は実車カタログ写真と見間違えるほどの品質。前後カウルは取り外すことも可能。 高橋氏の作品集。ACコブラ、GT40、ミウラ、300SLと、エンスーな車ばかりです。18ページあり。


これら2つの作例を見て感心するのは、実車への観察眼の鋭さです。車のドアを開けたときに目に飛び込んでくるドアの断面や内貼り、骨格であるピラーとそのプレスライン、着座したときに手に触れるシートの調整レバー、足裏から伝わるフロアの形状など、模型は俯瞰から見るから必要なしと省略されてきた五感に訴えるディテールを再現することで、中身の見えてる模型に説得力を持たせています。
またフルオープンモデルというのは開けた状態より閉じた状態での整合性のほうが難しくアラが見えやすいですが、本誌の作例はそこをキッチリ調整されており、チリのぴったり合った閉じても美しい模型に仕上がっています。

こうした本なので万人向けとは言い難く、その工作法が分かったからといって誰でも真似できるわけじゃありませんが、カーモデルのドアやトランクが開いたらいいのにと思った事がある人は少なからずいるでしょう。この本のはその方法論の一例が詳細に記されており、ヒントとして消化出来るならこの2800円という価格は投資して高くないと思いました。

褒めてばかりではアレなので欠点を挙げるとすれば、紙質が薄くて痛みやすい事、そしてステップ・バイ・ステップのレイアウトが全ページほぼ同じで、豆知識やここがポイントといった本の流れにメリハリをつける視覚的演出もないので、流れが淡々としていて地味に感じるところでしょうか。あ、それと文字が小さいので老眼には優しくないです。

最後に製作者であり著者様の誌内コメントで気に入った部分を抜粋。



もしかしたら本書の内容を見て尻込みしてしまうかもしれません。しかし、百聞は一見に如かず、百見は一考に如かず、百考は一行に如かずと言います。本誌をキッカケに新たな工法にチャレンジし、そのスキルを獲得して頂けたら、そして自慢の作品に反映していただけたら、これほどの喜びはありません。
(本誌143頁: 「高橋浩二氏・はじめに」より抜粋)





自動車模型フル開閉化編 著:淡路修史 / 高橋浩二 【Amazon】


(2013/05/26)


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